先生も子どもにかえる…
懐かしい恩師に会いにお宅へ伺ってきました…。
ポテ子が中学一年生の時の担任の先生です…。
先生がお便りをくださったのです。
その文字は少しいびつによたっていました…。
先生は達筆な方でいつも文字は横に伸ばすところ、縦におろすところが先生の性格のようにピッと気持ちよく書かれているのでした。
それが今回戴いた書面の文字は気持ちよく伸びていない…。
書くときに手が震えているのだろうか…?ポテ子は手にとってその文字を暫く見つめていました…。
「私も年をとってしまった…」と書かれていました…。
「あなたがボランティアの活動をしていて嬉しい…」とも書かれていました…。
ポテ子はボランティ活動は何もしていません…ハテ?…賀状にそんなことを書いた記憶もないなぁ…先生は何か勘違いされているのかな…??
先生に電話をおかけしました…。
何度目かの電話に先生が出られました…。
「はい宮前です」
「先生、福福です」
「…?」
「福福 ポテ子です」
「…?」
「先生、お便りいただきましてありがとうございました。ご無沙汰しています、福福ポテ子です」
「あ…ぁあ…ポテちゃん?」
「はい、そうです」
先生のご都合を聞いて翌日伺う約束をして電話を切りました。
思ったとおり…だ…とポテ子は思いました…。
先生の受け答えが少しだけおかしい…反応が遅いのです…。
ボールが跳ね返るみたいに言葉を返してコロコロと鈴虫のようにきれいな声で笑う人だったのに…。ご自分で書かれていた通り先生は年をとられたのだ…と思わされました…。
現在はご自宅でご主人様とお二人、悠々自適に過ごされておられますが趣味で通われている【太極拳】がない日ならいつでも大丈夫、と云うことで急ではありましたが翌日お会いすることになりました。
先生のお宅にお邪魔するのは何年ぶりでしょうか…もしかしたら20年ぐらい経つのかなぁ…?とポテ子は振り返り考えました…。
先生のお宅の周辺の建物が変わったり新しいお店が建ったりしていてポテ子は場所が分からなくなってしまい…近くで電話を入れました。
すると先生が迎えにきてくれました…。
その姿が細くて倒れそうで…思わず抱きしめたくなるような…影の薄い…そんな姿だったのです…。
先生はポテ子の車の助手席に乗ると
「ついさっきまでうちの前に立って待っていたのよ、ほんのちょっとの差だったんだわねぇ…」と云われました。
ポテ子は10分ほど約束の時間より遅れました…。
後で携帯を見ると先生からの着信が入っていました…。
先生が長いこと立って待っていてくれたなんて…悪いことをしてしまいました…。
ポテ子は全く気が付きませんでした…(この日はお天気が良く晴れ渡って暑い日でした…)
先生に食べさせてあげようと野菜をあれもこれもと箱や袋に詰めていたのでした。
勿論まえの晩に準備しておいたのですが、出がけになったら あ、これも持って行ってあげよう…とか思い立ってしまい…先生が外に立って待っていてくれてたなんて…思いもしませんでした…。
「重いから持たないで」とポテ子が云うのを振り切り先生はスイカの入った袋を一つ持ちました(笑)。あとは力持ちのポテ子が両腕にぶら下げ、もう一度運んで終了。
先生はとれたての野菜を見て子どものように顔をほころばせて喜んでくれました。
ウリ、キューリ、ナス、ピーマン、ししとう、唐辛子、トマト、ツルムラサキ、シソの葉、
ゴーヤー、オクラ、カボチャ、
スイカは先生がお好きだろうと3個持って行きました。冬瓜は丸のまま持って行ったのでその大きさに驚かれていました(笑)
先生はポテ子のためにお茶の準備をして下さっていました。
お久しぶりにお顔を見ていると直ぐに中学生の頃にタイムスリップしてしまいます…。
話しが弾むなか先生は席を立って「これ美味しいから食べてみて」とお菓子を出してくださったり「別の飲み物でも…」と紅茶を入れようとしてくれたりするのでした…。
「先生お気遣いしないでもう座ってください。飲み物もお菓子も十分にありますから…。先生にせっかくこうしてお会いできたんですから沢山お話しをしましょうよ、ね、先生、時間が勿体ないから(笑)」
ポテ子がそう云うと先生は
「おや…そうかい?…じゃ…いいか(笑)」と云って手にした綺麗な紅茶のカップを食器棚のなかにほっぽって食器棚の扉を開け放したままこちらに躰を向けられました。
「先生、そうは云ってもそんなバランスのままカップを置いたら落ちて割れてしまいますよ(笑)」云いながらポテ子が駆け寄ると先生は
「あぁ…いいよ割れても…」なんて云っています。
「ちょっと失礼しますね…」と断ってからカップをきちんと重ね食器棚の扉をしめました…。
「最近物忘れがひどいんだよ」と先生が云われました。
「先生、自分で物忘れがひどいと云う自覚があるうちは【物忘れ】なんじゃないですか?」とポテ子が云うと
「この間ハンドバッグの中に入れて置いた手帳がなくて探し回ったのだけど…圧力鍋の中に入っていたの…自分では入れた覚えがないの…」と云うことでした。
そういうことが日常のなかにちらほら出始まっているようなのです…。
うーむ…それはちょっと…ヤバイかも…。
「先生そのときってお酒とか飲まれていました?」「うう~ん、飲んでないよ」
ポテ子から見るともしかしたら…認知症の初期症状かな…と思いました…。
初期なら生活習慣でいくらか改善できるかも…。
先生は顔も手足も真っ白で身体が細く足腰がおぼつかなく見えました。
「先生、老化は足から…と云って体の要はまず足なんです。少し足を鍛えましょう…毎日足を肩幅くらいに開いてしこを踏んでください。」
「そうか…ふんふん…このくらか?」ポテ子が云ってる傍からすぐさま実践する姿がとっても可愛らしい先生…(笑)。
「無理のない幅で始めましょう…。大丈夫だと思えば少しずつ広げて構いませんから…深く腰を落とせないのだったら浅くてもいいですよ…」
「そうか…これでもいいのか?」
「いいですよ、先生上手です、このまま10秒間キープしましょう、1,2,3.4、5…」
「これは毎日何回やればいい?いつやればいい?」先生が訊いてこられました…。
「先生、あと毎日日光浴をしてください…先生は真っ白だわ…太陽の光を浴びなくちゃ!」
「先生、毎日早口言葉を何か云ってください。カエルぴょこぴょこみぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ…これでもいいですし何でもいいですから…」
「先生絵本を声に出して毎日読んでください」
「先生懐かしい歌を…若い頃好きだった歌を訊いてください…脳にいいんです」
「先生お食事はしっかり摂っておられますか?前から細かったけどまた細くなられましたよね…」
「とってるよ、お肉をとるようにしてるんだよ…ちゃんと脂身のすくないやつ…フィレを」
「先生、お肉はたとえフィレでも摂りすぎないでくださいね…」
「じゃ魚か?」
「(笑)魚でも摂りすぎてはいけません…少し食べるようにしてください…先生、躰には粗食がいいんです…感謝して美味しくいただいてください…よく噛んでくださいね…」
「そうか…うん、うん…」
先生はまるで小さな子どものようにポテ子の云うことに頷いておられました…。
先生は家庭科の先生をされていました。調理実習ではかつて調理を教えて頂いたり、藍染めのクッション作りから裁縫…スカートやパジャマなどの作り方を教えて頂きました…。
ポテ子は裁縫が苦手で仕上がっても着られないようなものばかりの生徒でした(笑)。それでも先生だけはいつもポテ子を可愛がってくれた珍しい貴重な方でした…。ポテ子は中学校生活はあまり好きでなかったし成績表を付けられることにも不満があったので卒業と同時にアルバムと成績表を燃やしてしまったくらいです…。
そんな中学生活を何とか終わりまで通えたのは宮前先生の大きな愛情を受けていたからかもしれません…。
その先生が少しずつ影が薄くなりつつあるのを感じてポテ子にはとてもショックでした…。
(先生、待って…待ってください…)と云う気持ちです…
その後先生のご主人様が帰ってこられたので三人でテーブルを囲みポテ子の農業の話
や躰の健康について話をしました。ご主人様も気さくな方で楽しいひと時を過ごすことができました。
あっという間に時間が過ぎ夕方になってしまったのでおいとますることにしました。
先生は玄関で見送ってくれようとしながら…また話が弾み…
ポテ子は後ろ髪をひかれるような気持ちで先生の細い手を握りました…
「先生…先生にお会いしたら何だかとっても元気になりました…先生からパワーを戴いたみたい(笑)」
先生は目を細めておられました。
「先生は足腰が弱くなっちゃったから外出はあまりしない方が良さそうね…私が先生のところにまた来ますから…待っていてくださいね(笑)」
と云うと
「うん…うん…待ってるよ…」そう云って笑っておられました…。
ご挨拶をして先生の家を出るとポテ子は横断歩道をわたり向かいの駐車場にとめた車に乗りこみました。四車線の通りへ出ようとウインカーをあげると道路を挟んで先生がポテ子を見送ってくれている姿が目に入りました…。窓を開けて先生に手を振りました。
人と人との繋がりって不思議だ…とポテ子は思いました…。この世の中は歳が離れていても出会う人と出会うようになっているのかなぁ…先生と生徒でも…出会うべくして出会ったってことなんじゃないかなぁ…人は引き合うんだと思う…同じような人と…。
まるで奇跡のように私達は巡り合っているのかもしれませんね…。
先生にお会いできてポテ子はとても幸せな気持ちになりました…
いつもありがとうございます…
これからまだ何回もお会いしましょうね…(笑)
ポテ子が行きますから…待っていてくださいね…
ご購読戴きましてありがとうございました。<(_ _)>
ではまた次回お会いいたしましょう