やっぱりご飯がすき・茨城のポテ子福福・田舎生活ダイアリー

農業を継ぐことになった50代主婦ポテ子の日常

ネズミ捕りとツバメ

 

 

4月の終わりごろのことです。

母(82歳)がポテ子に云いました。

「ツバメが落っこってたんだよ。飛べねぇんだわ…」

「どういうこと?」

「ツバメがな、倉のぬきばに落っこって(落ちて)たんだよ。だから掴んで『ホラ、飛んで行げ!』ってやったんだけども飛べねえみてぇなんだよ…」

「へぇー…それ、何処にいるの?」

「自転車のかごの中に入れといだ」

見ると綺麗なツバメが自転車のかごの中でマグロのように横たわっていました。

すぐさま掴んでみると少しベタッとしました。ツバメはポテ子の手の中で躰に渾身の力を入れてもがこうと必死のようですが躰は何かがくっついていてびくともしません。

よく見てみると粘着質のものがツバメの羽から躰にくっついているのです…。

ポテ子はツバメを自宅の台所に連れて行きました。

 

台所のテーブルの上に新聞紙を敷くと片手でツバメを優しく握り、もう片方の手で小さな鋏(鼻毛を切るための先の丸くなっているもの)を持ちツバメの躰にねっとりと張り付いている粘着質の糊を切っていきました。なるべくツバメの羽を最小限しか切らないように注意して…。ツバメは首から上は自由になるらしく色んな角度から首をねじらせてこちらを見ています。時折り翼に力を入れて逃げようと試みているようです。

(怖いんだね…)とポテ子は思いました。鋏を置いてツバメの頭を指でそっとなぞってあげました。それから口元に持って行ってツバメの頭や顔を唇で何度もなぞりました。

「可愛い顔をしているね…大丈夫だよ怖くないから…お前に名前を付けてあげる…アシュリーにするね、お前の名前はアシュリーだよ。アシュリー大丈夫だよ、今飛べるようにしてあげるから…待ってて…」

ゆっくりとツバメを怯えさせないように糊を切り落とし、羽も少し切り…大分綺麗になりました。いよいよ最後の仕上げです…。ツバメの翼を片側ずつ大きく広げて糊のついている箇所を丹念にチェックし糊を切ります…。ツバメが飛来した上空で突然落ちてしまわないように何度も何度もチェックしました。両方の翼の糊を切り終えるとポテ子は庭に出てツバメを掴んだ両手を上に持ち上げて力を緩めてやりました。

ツバメはポテ子の手から勢いよく空に羽ばたいて行き見えなくなりました。

 

フーッ…良かった…。

ポテ子も嬉しくなりました…。

ツバメの躰に張り付いていたあの糊は多分ネズミ捕りの粘着シートの糊だと思います。父(80歳)が倉の柱の上に何枚も仕掛けて置いているのです。

ツバメが巣を作れないようにするためです。

ツバメが巣を作ったらフンをされるのがイヤだと云うのが理由です。

こうしてツバメが粘着シートにくっついてしまった姿を見るとあらためて(何てヒドイ仕打ちなんだろう…)とポテ子は腹立たしくなりました…。

 

 

それから一週間ほど経ちました。

あのツバメは元気にしているかなぁ…とポテ子は考えていました。

ある朝、父がポテ子に云いました。

「ツバメが落っこってたんだ…」

「えっ…どういうこと?」

「ツバメが倉のぬきばに落っこってたんだよ、ネズミ捕りの糊でベタベタで…あれはもうダメだ…」

「えっ、それどうしたの?」

「木に引っ掛けて置いた」

 

またか…と思いながら父の指さす垣根のところに行くと、木の幹に黒い塊がゴミのようにくっついていました。一目見てポテ子も父の云った通り(これはダメそうだな…)と思いました。

ツバメは頭から全身が粘着で覆われてしまっていました…。特に顔の目の際までもが糊でべったりしているのを見たときには絶望的に思えました。

例えダメでも…とても可哀そうでこのまま見捨てて置くことはできない、とポテ子はそれを掴んでまた自宅の台所へ行きました。

新聞紙を広げ鋏を持ち糊付けのツバメの躰を両手でそっと開いてみました…。

 

するとそれは…

何てこと…ポテ子は驚いて目を見張りました。

(お前は一週間前のあのツバメじゃないか…)糊まみれの黒いゴミのような姿になっていたのはポテ子が助けてあげたアシュリーだったのです…。

所々ポテ子が切った羽の痕跡を見てすぐに分かりました…。元気にしているかなって思っていたのに…。こんな姿になったアシュリーに会うことになるなんて…思いもしませんでした…とっても…とっても残念です…。

「どうしてこんなことになってしまったの…?…同じところにまた引っ掛かるなんて…一度ひどい目にあったんだから、あそこは危険だって分かってたでしょう…?」

ポテ子はたまらない気持ちでアシュリーを見つめながら云いました…。

全身が糊まみれになってしまったアシュリー(…これでは糊を切り落とした後空へ飛んで行けないだろうな…)とポテ子は思いました。(糊がきれいに取り除けるかどうかも分からない…どれだけの羽と羽毛を切るのかも分からない…。糊を取り除いたあと飛べないアシュリーが生きていける…方法はあるのだろうか…?)

色々思いあぐねながらポテ子はゆっくりと丁寧にアシュリーの躰の糊と羽、羽毛を切り落としていきました。切り落とされた黒い糊の固まりの量が増えるほどにアシュリーの躰が自由になっていき、躰の羽が少しまばらになってしまった新しいアシュリーが現れてきました…。顔の目の周りは目を傷つけないように最新の注意を払いなが作業を行いました…。アシュリーはポテ子を覚えているのか少しも動かずにじっとしてくれていました…お陰で最初見たときには取れるだろうか…と思われた全身の糊を段々とキレイにしていくことが出来てきました。

最後にどうしても糊がとれなかったので…残念でしたが綺麗な尾を切り落としました…。

 

 

「アシュリー…お前は覚えなくちゃいけないよ…何度も同じ失敗を繰り返しちゃいけない…あの柱には近づいちゃいけないの…同じ失敗を繰り返してるといつか死んじゃうんだよ…ね…だからお前はもう覚えなくちゃならないの…わかった?飛べるようになったら、あの柱にはもう近づかないこと!ね!」

そう云いながらポテ子はふと思いました。

 

(あれ…これって…もしかして自分に云っているみたい…な気がする…?)

 

 

失敗から学びなさい…。同じ失敗を繰り返していてはいけないよ…って…。

 

アシュリーだけじゃないんだ…ポテ子もそうなんだ…同じ失敗を何度も繰り返しているといつかとんでもないことになってしまう…ってことなんだ、きっと…。と胸の中で思いました…。失敗をしたらどうしてそうなったのかよく考えて注意をしなければいけないんだ…。でないとまた繰り返してしまう…もっと大きな失敗にもなりえる…。けれど…注意すれば…同じことを繰り返さずに避けることができる…ってことなんだ…

 

 

ポテ子は取り敢えずアシュリーを猫のケージに入れて置くことにしました。

うちののミーコちゃん(愛猫)に食べられてしまわないように…。

そしてツバメを保護したときのケアについてスマホで検索を始めました。

やっぱり虫が良いようでした…。夕方クモを捕まえてケージの中に入れてあげましたがアシュリーは無関心でした。クモはせわしく歩いてケージの隙間から脱出してしまいました。アシュリーは大分元気を取り戻したらしくケージの中でしっかりと立ち自らの躰のあちこちをチェックしているように見えました。

ポテ子もアシュリーがどれくらい飛べるのか確認してみることにしました。

アシュリーを両手でそっと掴みケージから出してあげると台所の床に置いてみました。

すると

パタパタパタパタパタ…!と突然羽を広げました。低空を辛うじて何とか躰を浮かしている感じです。

「無理だよ、アシュリー無理だよ」とポテ子が云うのも聞かずにそのまま台所の勝手口から外に飛び出して行きました。飛べないと思っていたので勝手口は開け放していたのです。低空飛行のアシュリーが外に出るとすぐに一羽のツバメが舞い降りてきてアシュリーを援護するように寄り添いました。アシュリーは今にも地面に落ちてしまいそうな危なっかしい飛び方です。地面に落ちたら猫やカラスに襲われてしまう…ポテ子は夢中でアシュリーを追いかけました。

「ダメだよ!まだ無理だって…待って…」そう云いながら必死で追いかけました…。

アシュリーも多分必死で翼を動かしていたのだと思います。

チョウチョのような変な飛び方でしたが…ポテ子の視界から消えて行ってしまったのです。寄り添っていたのはパートナーだったのでしょうか…多分。ツバメはテレパシーとかあるのかなぁ…?とポテ子は思いました。

アシュリーが勝手口から出たと同時に飛んできたツバメは…まるでアシュリーが何処にいるのか分っていたみたいに見えたのでそんなことを思ってしまったのです(笑)。

あの後アシュリーが何処かに落ちているかもしれない…とポテ子は思ってあたりを歩いて回りました。が幸いにも見当たりませんでした…。あんな羽の状態で飛び出してしまうとは想像もしませんでした…。

もしアシュリーが飛んで行かなかったとしたら…どうなっていたのでしょうか…

ポテ子はアシュリーに充分な虫を提供することは難しかったと思います。

 

これで良かったのかもしれない…そう思いました…。

 

 

5月中旬の頃のことです…。

倉の扉を開けたまま工具を捜しているとちょっとの隙にツバメが入ってきてしまいました。この時期ツバメはよく倉に入ろうとするのです。人懐こい性格とより安全なところに巣を作ることを好む傾向から進んで人間の傍にやってくるように思います。

急いで扉を閉めようとしましたが続いてもう一羽が入り二階まで飛んでいってしまいました。

やれやれ…とポテ子は思いました。

ツバメにしたらこの倉に巣を作れば安全だと思えるかしれないけど、実際はそうじゃないのです…。何故ってこの倉は普段締め切っているから入ったら最後出られなくなってしまうのです。

倉の扉を開けたままにしてポテ子は二階に上がりました。そして二階の窓も数か所開けてあげました。

「ホラ出なさい…出られなくなっちゃうよー」二羽のツバメは天井の梁のあたりを飛び回っています。

すると突然一羽のツバメがポテ子のすぐ近くに舞い降りてきました。

ツバメはポテ子の目の前あたりを何度も何度も

「チチチチチ…チチチチチ…」と云いながら飛び続けました。

 

え~!!もしかして…

ポテ子は目の前のツバメを凝視しました…

え~!!尾っぽが短い!!

「アシュリーなの??お前アシュリーなの??(笑)」

「チチチチチチ…チチチチチチ…」

しばらくポテ子の周りを飛び続けた後アシュリーは窓から飛んで行きました。

もう一羽のツバメはポテ子に近づくことなく窓から飛んでいきました。

 

生きてたんだ…とポテ子は驚きました。

まさか生きていたなんて…

ホントにホントに嬉しい…。

あんなにポテ子の目の前を何度も飛んで…何て云ってたんだろう…

 

きっと…

「ありがとう、元気だよ、お陰でこんなに元気だよ!ありがとう💛」だろうな…(笑)。

 

 

 

 

 

 

読んで下さって有難うございます<(_ _)>

宇宙に存在するすべてのものに感謝いたします。

また次回お会いいたしましょう(^o^)